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サロンを経営していると、自分がサービスを受ける側に回る機会が減っていく。施術をしている間も、どこかで「自分だったらこうする」と観察している自分がいる。先日、都内の美容院へ2回目の来店をした。今回は仕上がりよりも、椅子に座りながら感じたことの方が、ずっと多く残った。美容院の椅子は、不思議と思考を整理させてくれる場所だと改めて感じる。鏡の前で自分の顔を見続けながら、頭の中では全く別のことを考えている。そういう時間が、日常の中に定期的に必要なのだと思う。
2回目の来店は、初回より正直になれる
初回の来店では、お店の雰囲気も担当者の技術も、すべてが新鮮だった。今回は2回目ということもあり、感動の鮮度は初回ほどではない。それは当然のことで、むしろ2回目だからこそ、冷静に観察できる部分がある。カウンセリングでまず聞かれたのは「今日はどうしたいですか?」という一言だった。前回と同じくらいと答えたあと、「カラー材は〇〇でしたっけ?」と疑問形で聞かれた瞬間、カルテを確認していないのかもしれない、と思った。
少し経って「見てきます」と席を離れ、確認して戻ってきた。カラーの番号は控えてあったようだ。美容室は予約を重ねて取る仕組み上、来店前に一人ひとりのカルテを確認する余裕がないのだろうと、すぐに理解した。そしてその後の担当者の対応が、印象に残った。お客様に悪い気分をさせないトークと人柄で、いつの間にか私の方から細かな要望を伝えるスタンスに変わっていた。カルテの確認が遅れたことへの気まずさを感じさせない、自然な流れだった。サービスを提供する側として、これは技術とは別の、接客の力だと思う。

ハーブティーが選べるお店は、初めてだった
施術前にお茶のサービスがあり、コーヒー・紅茶・ハーブティー・緑茶・オレンジジュースの中から選べた。ハーブティーが選択肢にあるお店は、これまで行ったことがなかった。カラーやパーマの放置時間があるからこそ提供できる、という理由もあるのだろう。その時間を心地よくするための選択肢として、ハーブティーは自然な発想だと思った。
私自身、以前は施術前後にお茶を提供していた時期がある。でも、食品衛生に関わる管理の手間や、対面でお茶を飲むタイミングが掴みにくいというお客様の様子を見ているうちに、徐々に提供しなくなっていた。今回、選択肢の中にハーブティーを見て、自分がやめた理由を改めて思い出した。やめたことへの後悔ではなく、サービスの設計には「何を提供するか」と同じくらい「どのタイミングで、どう提供するか」が大切だという確認だった。
個人事業主には真似できないセンスがある

店内の装飾が印象的だった。シャンプー台に寝た時に見える無機質な天井ではなく、花が咲き乱れるようなドライフラワーの天井装飾、照明の使い方、空間の作り方——どれも、沢山の店舗を作ってきたオーナーのセンスが随所に感じられる。個人事業主として自分のサロンを作ってきた身からすると、資金力や経験値の違いを正直に感じる部分だ。真似できないからこそ、自分のサロンにしかできないことを磨いていくしかない、という気持ちにもなった。規模の違いを嘆いても仕方がない。むしろ、大きなお店にはできない「一人だからできる細やかさ」が自分の武器なのだと、改めて確認できた時間でもある。
プチ個室に案内してもらったことも、今回の来店でよかったことのひとつだ。完全な個室ではないけれど、周囲の視線が気にならない空間で、鏡と自分だけの時間を過ごせる。施術を受けながら、鏡越しに担当者の技術を観察する余裕が生まれた。セルフカットでフェイスラインを整えることもあるので、プロの手元の動きが気になる。自分が施術をする立場として、そういう見方が自然と出てくる。
「失敗はない。成功しかありえない」
施術の途中、今のお店が今年中にニューヨークへ進出するという話になった。もしアメリカへ行かないかと打診されたらどうするか、と聞いてみた。「悩むけど、行くかもしれない」という答えが返ってきた。私が「成功して帰るのか、凹んで帰るのか、いずれにしても良い経験だよね」と言うと、担当者はこう答えた。
「失敗はない。もし行くなら死ぬ気で頑張る。成功しかありえない。」
その言葉を聞いたとき、少し羨ましいと思った。今の自分には、そういう気合がない。いつからそうなったのか、はっきりとはわからない。サロンを続けていく中で、守るものが増えて、挑戦よりも安定を選ぶ思考が染み付いていったのかもしれない。「失敗はない」と言い切れる人間と、「いずれにしても良い経験」と言う人間の間には、何かの差がある。その差が何なのか、椅子から立ち上がった後もしばらく考えていた。自分が発した「いずれにしても良い経験」という言葉は、励ましのつもりだったけれど、同時に自分の中にある「失敗への恐れ」の裏返しでもあったかもしれない。
サービスを受ける側に回ることの意味

自分のサロンでお客様をお迎えしているとき、私はいつも「提供する側」にいる。でも定期的にサービスを受ける側に回ることで、見えてくるものがある。カウンセリングの流れ、言葉の選び方、空間の作り方、タイミングの掴み方——どれも、受ける側に立たないとわからない感覚だ。技術は鏡越しに見られても、接客の温度感は自分が客になって初めて体感できる。
2回目の来店で感動の鮮度は落ちたけれど、代わりに冷静な観察ができた。初回は「すごい」と感じるだけだったものが、今回は「なぜすごいのか」を考えながら椅子に座っていた。次の来店では、また別の何かに気づくかもしれない。サービスを受けることも、学びの旅のひとつだと、今は思っている。同じ場所に何度も行くことで、初回には見えなかったものが少しずつ見えてくる。旅と同じで、慣れた頃にこそ、本質が顔を出すのかもしれない。
「失敗はない、成功しかありえない」と言い切れる人間に、久しぶりに会った。その言葉がずっと頭の中に残っている。自分のサロンを続けながら、いつかまたあの気合を取り戻せる日が来るかどうかはわからない。でも少なくとも今日、美容院の椅子に座ってその言葉を聞いたことは、旅先での出会いと同じくらい、何かを揺さぶった気がする。
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※本記事の内容は筆者の個人的な体験・感想をもとにしています。お店の情報は執筆時点のものです。

