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梅雨が来る前のわずかな晴れ間を狙って、北軽井沢へ向かった。知り合いの別荘に泊まらせてもらえることになり、宿を探す必要も、チェックアウトの時間を気にする必要も、何もない。何時に起きても、何時に寝てもいい——そういう旅は、久しぶりのことだった。
道中の小さな発見から、旅は始まっていた
高速道路のパーキングで休憩を取ったとき、軒下に燕が止まっているのに気づいた。よく見ると、羽を体に折りたたんで目を閉じている。眠っている。燕が眠る姿を、これまで意識して見たことがあっただろうか~と思いながら、しばらくその場を動けなかった。旅先では、こういう小さなものが急に目に入ってくる。日常の速度で走っているときには、素通りしてしまうものが。

1日目。緑の中のカフェと、地元の温泉
初日は夜遅く着いて寝るだけだったので、実質的な旅のスタートは翌朝から。まず向かったのはベーカリーのCoCoLaDe御代田店だ。緑に囲まれた屋外のテラス席でコーヒーのサービスと焼きたてのパンを食べられる。山をバックにたたずむ雰囲気が、熊本で行ったことのある場所に似ていて、旅先で「熊本に似ている」と感じる瞬間は、なぜか少し嬉しい。自分が旅に何を求めているのか、そういう細かい感覚の中にヒントが隠れているような気がしてならない。

続いてかえる亭御代田へ。注文してから作る米粉のお団子は、少し待つ時間も含めて古民家の空気の中にいると、急ぐ理由が自然となくなってくる。できたてのお団子は想像よりもちもちしていて、一口食べたときの素朴な甘さがちょうどいい。旅先でこういう店に出会うと、次に来たときにもまたここに寄ろうと、自然に思える。

夕方前に布引温泉へ。地元の人が普段使いしているような温泉で、観光客向けに整えられた施設とは少し違う空気がある。長居しても急かされることもなく、湯に浸かりながらぼんやりできる時間は、旅の疲れとも日常の疲れとも、少し違う形で体にしみてくる。温泉を出て夕食は「いっちょう」へ。旅先の夕食に気取りは要らない。その帰り道、食後のコーヒーが飲みたくなり、閉店ギリギリのタイミングで丸山珈琲 小諸店へ滑り込んだ。

丸山珈琲は、ツルヤに商品が並んでいるのを見てずっと気になっていたお店だ。軽井沢周辺は閉店が早いので、タイミングが合わなければそのまま通り過ぎるところだった。開店1周年ということもあり、店内は綺麗で洗練されていて、1,000円を超えるコーヒーメニューが並ぶ高級店らしい「贅沢な空間作り」が随所に感じられた。目立たないところにさりげなく物販コーナーがあるあたりも、押しつけがましくなくていい。
私はコーヒーゼリーを注文した。連れ(元カフェ運営者)はコーヒーを頼んだが、種類が多くて何を選んだか正確には覚えていない。印象に残っているのは、2杯分のサーバーで提供されたこと。紅茶のポットのような形で、フィルターで濾されているわけではないので、ベトナムコーヒーのような濁りがある。コクはあるのだろうけれど、私には少し重かった。次に来るとしたら、布フィルターで丁寧に淹れたコーヒーを飲んでみたい。まずは家でお試しセットから試してみるのもいいかもしれない、と思いながら店を出た。
キジの声で二度寝した朝のこと
別荘に泊まった2日目の朝、聞いたことのない鳴き声で目が覚めた。鳥にしては低く、何か獣でも近くにいるのかと思いながら、そのまま二度寝した。起き上がってから、さっきの声はキジだったと教えてもらった瞬間、しまった、と思った。
野生のキジを実際に見たことがない。鳴き声もそれが初めてで、あの声をもう少し意識して聞いていたら、姿も見られたかもしれない。後悔というほどではないけれど、知っていたら二度寝しなかった、という気持ちは確かにある。目覚まし時計ではなく野鳥の声で目が覚める朝というのは、都市部の日常ではまず起こらない。サロンの予約時間も、開店準備も、その朝だけは関係なかった。ただ、鳴き声がして、二度寝して、気づいたら朝が深くなっていた——それだけのことが、妙に記憶に残っている。

2日目。つまごいパノラマラインと、真田の城跡
地図を見ていたときから名前が気になっていた道がある。嬬恋村を走るつまごいパノラマラインだ。実際に走ってみると、想像をはるかに超えるスケールで視界が広がった。道の両側に地平線まで続くキャベツ畑、その奥にくっきりと稜線を描く山並み。空と緑と山が、走りながらずっと視界に入ってくる。嬬恋村がキャベツの産地だという知識はあっても、畑の中を走り抜けるまで、その規模は体感としてわからない。写真では伝わりにくい、あの広さとまっすぐさ。次に北軽井沢へ来るときも、ここは必ず通りたいと思う。
上田方面へ向かう途中、地図で見かけた真田氏本城跡に立ち寄った。お城と名のつく場所には、機会があれば立ち寄りたいと思っている。天守閣があれば登るし、石垣だけが残っている場所でも、そこに人が暮らしていた時代を想像しながら歩くのが好きだ。城があった場所には必ず理由がある。地形であったり、水であったり、その理由を読みながら歩く時間が、観光というよりも対話に近い感覚がある。
真田氏本城跡には、天守閣も石垣もほとんど残っていない。山の稜線に沿って曲輪の跡が続いているだけの、静かな山城の跡だ。それでも木々の間から見える山並みと、足元の草の感触と、誰もいない静けさが重なって、しばらくそこにいたくなる。観光地の賑わいとは無縁の場所だからこそ、時間がゆっくり流れているように感じられる。

2日目の温泉は真田温泉健康ランドふれあいさなだ館へ。前日の布引温泉とは雰囲気が異なり、地域の人たちの生活に根ざした施設という空気がある。湯上がりに、今日もよく動いたと思いながら、それでもどこか軽かった。
今年は、若葉の季節を何度も味わえた
北軽井沢は標高が高い分、新緑の時期が関東よりも遅い。今年はすでに熊本でも新緑を楽しんでいたため、北軽井沢でまた若葉の季節に出会えた。夏の濃い緑と青空のコントラストも好きだが、若葉色と青空の組み合わせには、それとは違う柔らかさがある。同じ季節を、違う場所でもう一度——旅をしていなければ手に入らない時間の使い方だ。
熊本で新緑を見て、首都圏に戻り、また北軽井沢で若葉に出会う。今年は同じ季節を三回楽しめた計算になる。旅が増えると、季節の感じ方まで変わってくる。暦の上だけでなく、場所によって少しずつずれていく自然の時間を体で追いかけているような感覚——それが旅の面白さのひとつかもしれないと、北軽井沢の木々を眺めながら思った。
別荘滞在で気づいた「貸し別荘」という選択肢
今回は知り合いの別荘に泊まらせてもらったことで、時間に制約されない滞在ができた。チェックアウトの時間がなく、朝も夜も自分のペースで動ける。それは間違いなく今回の旅の一番の自由だった。ただ、自由には準備と後片付けがセットでついてくる。帰る前には部屋の掃除をして、キッチンを片付けて、布団カバーを洗濯して——ホテルなら気にしなくていいことが、別荘では全部自分の仕事になる。
それが苦にならない人、頻繁に通える人にとっては別荘の所有は理想的だと思う。でも、年に数回しか行けないなら、「貸し別荘」という選択肢も悪くない。自分のペースで過ごせる空間と、後片付けの手間のなさを、いいとこどりできる。今回の旅でそのことに気づいてから、次の旅では貸し別荘やコテージも選択肢に入れてみようと思っている。
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帰り道のツルヤが、この旅の締めくくり
北軽井沢から帰るとき、毎回立ち寄る場所がある。それはスーパーマーケット。今回は地元で知られるツルヤだ。購入した長野県産のりんごは、近所のスーパーと比べると見た目からして違う。野菜は若干安い位だが、新鮮さが伝わってくる。スーパーに寄るたびに地元の食材を手に入れて帰る。これがいつの間にかこの旅のルーティンになっている。旅の記憶は写真だけでなく、帰ってから食べるものの中にも残っていく。
時間に支配されない旅が教えてくれること
今回の旅でいちばん違ったのは、時間の感覚だ。チェックアウトの時間も、夕食の予約も、翌朝の予定もない。そういう旅では、体の疲れよりも先に、「次はこれをしなければ」という頭の中の声が静かになっていく。
キジの声で目が覚めた朝も、城跡で誰もいない静けさの中にいた時間も、古民家のカフェでお団子を待ちながらぼんやりしていた時間も、どれも予定通りではなかった。予定通りではない時間の中にこそ、旅の本当の記憶が残っていくものだと改めて感じる。次に北軽井沢へ来るとしたら、今度はキジの声で二度寝しないようにしよう——そう思いながら、帰り道のハンドルを握った。
※本記事に記載している店舗情報・施設情報は執筆時点のものです。営業時間や定休日は変更になる場合がありますので、お出かけ前に各施設の公式サイトでご確認ください。

