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8月に入った最初の土曜日、外の気温はすでに猛暑だった。半年に一度、施術に来てくれるお客様とランチをする約束をしていた。2つのお店を候補に挙げていたけれど、「なるべく外を歩かなくて済む方」という基準で、駅から近いイタリアンを選んだ。猛暑の日の外出計画は、いつもそうやって変わる。
貸し切りの静けさの中で
土曜日のオープン直後に入ったせいか、店内に他のお客様はいなかった。コンクリート打ちっぱなしの壁にワインボトルが並ぶ棚、赤いソファのボックス席。昼間の光が窓から差し込む中、若いバイトの女の子が笑顔で案内してくれた。とても感じが良く、こちらまで気持ちが軽くなるような接客だった。混んでいる日には味わえない、静かで贅沢な時間の始まりだった。
その子の姿を見ながら、自分が20歳くらいのときに喫茶店でバイトしていた頃のことを思い出した。初めてのバイトで、何をするにも楽しくて、大きな店舗だったから同年代のバイト仲間が大勢いた。みんなで遊びに行ったり、伊豆旅行に行ったりした。今思えば、あれが青春だったのかもしれない。向かいに座った人の話ではなく、目の前の女の子に過去の自分を重ねていた。旅の記憶は、思わぬ場所で顔を出す。

パスタで行こうと思っていたのに、グリーンカレーを頼んだ
メニューを開いたとき、最初に目が止まったのは生パスタのページだった。北海道直送のもちもち生スパゲッティを使っているとある。「パスタで行こう」と決めていたはずなのに、ページをめくる手が止まった。グリーンカレーの写真が目に入った瞬間、脳が先に反応していた。
猛暑の日にスパイスが恋しくなるのは、理由のないことではないと思う。冷房の中で冷えた体が、スパイスの熱を求めていたのかもしれない。頭では「パスタ」と思っていても、脳はもっと正直に今必要なものを知っている。結局グリーンカレーを注文した。お客様は迷わず「焼きとうもろこしとベーコンの和風醤油パスタ」を選んでいた。同じメニューを前にして、こんなにも違う選択をするのが面白い。
グリーンカレーは雑穀米と一緒に運ばれてきた。ルーはまろやかで、後からスパイスがじわじわとくる。猛暑の体に、その刺激がちょうど良かった。お客様のパスタはシェアしてもらわなかったので、どんな味なのか気になったまま食事を終えた。


「動いていないと逆に疲れる」という言葉
食事をしながら、お客様の話を聞いた。私より一回り年上の方で、今もフルタイムではないにせよ、短時間の契約を一日に2つ、3つと入れながら働いている。土日は娘家族を家に招いて、自分の時間がほとんどないほど動き続けている。それを聞いて「すごい」と思う気持ちと、「なぜそこまで動けるのか」という疑問が同時に浮かんだ。
その答えがこの言葉だった。「動いていないと、逆に疲れを感じる。」
休むことで回復する人もいれば、動き続けることで調子が整う人もいる。どちらが正しいということではなく、自分に合った生き方が人それぞれある。サロンの仕事を通じて「整える」ということを考え続けてきた自分にとって、その言葉は少し新鮮に響いた。休息と活動、どちらが自律神経にとって良いかという話ではなく、その人がどういうリズムで生きているかが大事なのだと、改めて思う。そして、そのリズムを自分自身がちゃんとわかっているかどうかが、整えることの出発点なのかもしれない。
旅先でなくても、学びは向こうからやってくる
私の得意分野である美と食と健康の話もした。お客様は興味深そうに聞いてくれた。話しながら、自分が日頃考えていることを言語化する時間になっていた。伝えることで、自分の考えが整理される。これは旅先で景色を見ながら気づくこととは違うけれど、根っこは同じだと思う。場所が変わるから気づけることもあれば、向かいに座った人が変わるから見えてくることもある。
向かいに座った人の生き方を知ることも、旅の一種だ。行き先が違う場所ではなく、自分とは違う時間の使い方や価値観の中に踏み込んでいく。一回り年上の方が積み上げてきたものを、2時間のランチで少しだけ見せてもらった。猛暑の日に、貸し切りの静かな空間で、グリーンカレーを食べながら。旅は、遠くに行かなくても始まっている。
次に来るときはパスタかピザも食べてみようと思いながら、自家製ジンジャーエールの最後の一口を飲み干した。

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