帯状疱疹になった私が、熊本で思い出した旅の楽しさ

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旅が好きだったことを、熊本で思い出した

ANAのマイレージアプリを開いたのは、1月の終わりだった。特に何かを調べたかったわけじゃない。なんとなく開いて、なんとなくスクロールしていたら「有効期限:3月31日」という文字が目に入った。10,000マイル。実はこのマイル、もともと別の使い道を考えていたものだった。ANAグループのエアージャパンへの交換サービスを使うつもりで頭の片隅に置いていたのに、そのサービスが終了してマイルがANAに戻ってきた。有効期限まで約半年。漠然と「どこかに使わなきゃ」と思いながら、ずっと後回しにしていた。

3月末までに予約さえ入れればいい。それなら時期を選べる。そう気づいてから、頭が少し動き始めた。GWは人が多い。梅雨に入ったら天気が読めない。それに、ANAの運賃改定前に予約しておきたい。だったらGW明けで梅雨前、新緑が一番きれいな5月がいい。条件を整理していくうちに、熊本・阿蘇という行き先が自然に浮かんだ。検索しながら、気づいたら少し楽しみになっていた。マイルの期限がきっかけだったのに、いつの間にか「行きたい」という気持ちに変わっていた。人間って単純だなと思いながら、熊本行きの便を押さえた。

予約を終えてアプリを閉じたあと、カレンダーに「熊本」と書き込んだ。それだけで少し現実感が出た。サロンの仕事をしながら、ときどきその書き込みを見ては、新緑の阿蘇を頭の中で思い描いた。行ったことがない場所なのに、なぜか「絶対いい」という確信があった。写真で見た草千里の緑と空の広さが、頭の隅にずっとあった。

出発1週間前に、体が先に音を上げた

出発の1週間前、右の脇腹にチクチクとした痛みが出てきた。最初は疲れからくる筋肉痛だと思っていた。でも2日経っても引かなくて、皮膚に赤い発疹が出てきた。皮膚科に行ったら帯状疱疹だと言われた。「ストレスや疲れが引き金になることが多いですよ」と先生が言いながら、抗ウイルス薬と痛み止めを処方してくれた。薬の袋を受け取りながら、ああそういうことか、と思った。言葉にできていなかった何かを、体が先に表に出してくれた気がした。

サロンで毎日お客様の体に触れていると、「疲れているけれど休めない」という人がどれだけ多いかを実感する。身体を休ませているつもりでも、頭の中では次の予定を考えている。オフの日でも、仕事のことが頭の片隅に残っている。完全にオフになりきれないまま、日常を引きずっている。私自身も、まさにそういう状態だった。帯状疱疹になるまで、自分がそんなに疲れていたことに気づいていなかった。正直、キャンセルしようかとも思った。楽しみにしていた旅なのに、よりによってこのタイミングで、という気持ちもあった。でも調べてみると、抗ウイルス薬を飲んでいれば動けないほどではないとわかって、行くことに決めた。薬を持っていけばいい。痛ければ休めばいい。それだけのことだった。

空港が、こんなに久しぶりだった

羽田空港に着いて、まず感じたのは「久しぶりだな」という感覚だった。チェックインカウンターの列、保安検査場の慌ただしさ、搭乗口の前でそれぞれスマホを見ている人たちの静かな集中。それらが以前は当たり前の景色だったはずなのに、その日の私には少し新鮮に映った。いつの間にかこういう場所と縁遠くなっていたことを、その場に立って初めて気がついた。機内持ち込みサイズのバッグひとつ。2泊3日だから当然といえば当然だけど、この身軽さが久しぶりで、どこかくすぐったかった。搭乗のアナウンスが流れて、列に並んだ。右脇腹のズキズキした痛みを感じながら、でも不思議と、気持ちは前を向いていた。

くまモンが「Enjoy your trip!」と言っていた

熊本空港に降り立ったとき、まず目に入ったのはくまモンだった。以前、仕事の関係で2度この空港を使ったことがある。でも当時はずっと工事中で、完成した姿を見るのは今回が初めてだった。到着ロビーを出ると、くまモンの大きな壁画が「Enjoy your trip!」と言っている。思わず笑った。右脇腹は痛いし、薬は飲んでいるし、万全とは程遠い状態で来たのに、くまモンに「楽しんでいけ」と言われると、素直にそうしようという気になった。外に出ると「KUMAMOTO」の大きな赤いオブジェがあって、となりにもくまモンがいた。写真を撮った。完全にはしゃいでいた。

レンタカーを受け取って、阿蘇へ向かった。運転しながら、都市部で暮らしていると空は建物と建物の間に切り取られた形で存在しているんだなと改めて思った。熊本の空は違う。遮るものが少なくて、どこまでも続くような広さがあった。走り出してすぐ、その広さが体に入ってきた。

窓を全開にして、何度も叫んだ

ミルクロードに入ったとき、景色が変わった。阿蘇の外輪山の稜線に沿って続く道を走りながら、思わず窓を全開にした。5月の風が車の中に入ってきて、「気持ちいい〜」と何度も叫んだ。叫ばずにはいられなかった。以前、長野のビーナスラインを走ったときも似た感覚があった。視界が開けた道を、ほとんど貸し切りに近い状態で走る、あの開放感。でも阿蘇はそれとも違った。「ここは本当に日本なの?」と思うくらい、私が知っている日本の景色とかけ離れていた。北海道も走ったことがあるけれど、それともまた違う。何と言えばいいのか、スケールが違う。空と大地の境界が、どこまでも遠かった。

走りながら、ふと思った。アメリカやフランスの道も走ってみたい。どこかで読んだことがある、地平線まで続くルート66や、南フランスのぶどう畑の中を走る道。あのミルクロードを走っていなければ、そんなことを強く思わなかったかもしれない。旅って、次の旅への扉を開けるんだなと思った。サロンの仕事をしながら、お客様の体の緊張をほどいていると、人は「余白」ができたときに初めて自分が本当に欲しいものに気づくことがある。あのミルクロードで窓を全開にして叫んでいたとき、私の中にあった余白に、ずっと忘れていた何かが戻ってきた気がした。

「旅が好きだった」と気づいた瞬間を、うまく説明できない

旅が好きだったというのは、景色が好きだったということじゃないと思う。ミルクロードの景色はたしかにすごかった。でも私が「旅が好きだった」と感じたのは、その景色を見たからじゃなくて、その景色の中にいる自分の状態に気づいたからだ。スマホを持っていない手のひら。誰かに報告する必要のない時間。次に何をすべきかを考えなくていい、あの静かな空白。旅の中にしかない、あの空白を、私はずっと前から欲しがっていた。でもそれが欲しいということさえ、忘れていた。

ミルクロードを走りながら、次の目的地を決める気になれなかった。急ぐ理由がなかったからだ。阿蘇へ来たらここへ行こう、次はあそこを見ようと出発前には考えていたのに、その日は景色の良い場所を見つけるたびに車を停めていた。

風が気持ちよくて、しばらく立っている。写真を撮る。車に戻る。また少し走る。そしてまた停まる。その繰り返しだった。

考えてみれば、こんな時間の使い方をしたのはいつ以来だろう。普段なら空いた時間ができるとスマートフォンを見るし、次にやることを探してしまう。何もしない時間があると、何かをしなければいけない気がして落ち着かなくなる。

でもあの日の私は違った。次に何をするかよりも、今見ている景色の方が気になっていた。どこへ向かうかよりも、吹いてくる風の方が気になっていた。

その感覚が懐かしかった。

旅が好きだった頃の私は、きっとこんなふうに時間を使っていたのだと思う。

楽しい時間は、あっという間に過ぎた

帰りの飛行機の中で、窓の外を見ていた。旅ってやっぱり楽しい。そう思った。当たり前のことなのに、それを忘れていた。楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。これも当たり前のことなのに、久しぶりに実感した。2泊3日があっという間だったのは、それだけ夢中になっていたからだ。帯状疱疹の痛みも、右脇腹にあったはずなのに、旅の間中ずっと遠い場所にあるような気がしていた。

旅から帰っても、日常が変わるわけじゃない。サロンの予約はある、帯状疱疹もまだ治っていない、来週の準備もある。熊本に行ったからといって、何かが解決したわけじゃない。でも私の中に、出発前にはなかった何かがある。うまく名前はつけられないけれど、あえて言うなら「自分が自分に戻った感覚」だろうか。旅に出て景色を見たから戻ったのではなく、自分が選んで動いて、誰かのためじゃなく自分のための時間を持ったから、戻ってきたのだと思う。旅はそのための、器だった。

マイルが、旅のきっかけをくれた

今回の旅を動かしてくれたのは、マイルだった。正確には「いっしょにマイル割」という、マイルを使って同行者と一緒に旅ができるサービスだ。残念ながら今は終了してしまったが、個人的には復活してほしいサービスのひとつである。

もし今回の航空券を現金で購入していたらどうだっただろう。出発一週間前に帯状疱疹になった時点で、「今回はやめておこう」と考えていたかもしれない。右脇腹は痛いし、無理をしてまで出かける理由もない。

それでも熊本へ向かったのは、すでに旅の準備ができていたからだと思う。期限が近づいていたマイルを使い、行き先を決め、航空券を予約していた。その小さな行動の積み重ねが、出発当日の自分を飛行機へ乗せていた。

私はマイルを貯めるために生活しているわけではない。日々の買い物を少し工夫しているだけだ。それでも気づけば飛行機に乗れたり、今回のように旅へ出られたりする。

だから私にとってマイルは、単なるポイントではない。

期限が近づいていた1万マイルがなければ、今回の熊本旅行はなかったかもしれない。ミルクロードで窓を全開にして走ることもなかっただろうし、「旅が好きだったこと」を思い出すこともなかっただろう。

そう考えると、あのマイルは航空券に変わっただけではなく、しばらく忘れていた感覚まで運んできてくれたような気がしている。

今回の熊本旅行で使ったANAマイルは、特別な方法で貯めたものではない。
実は私自身、陸マイラーでもなければ、ポイント獲得のために何時間も調べ物をするタイプでもない。
それでも熊本へ行けるくらいのマイルは貯まった。
次の記事では、普段の生活の中でどのようにマイルを貯めているのかを書いてみようと思う。

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